医療の枠を超えてこどもの生活を支える(中編)重い障がいがあっても全ての子は学ぶべき〜世田谷みくりキッズくりにっくインタビュー

左 渡邊絵都子先生(作業療法士) 右 長田ゆき先生(言語聴覚士) 

 

みくりキッズくりにっくでは、18歳未満の重症心身障がい児(重心)を対象とし、日中の預かりを行う『まんまる(日中ショートステイ)』や、発達・小児神経外来を受診した1歳半〜3歳児を対象とし、モンテッソーリ教育を取り入れた親子参加型の『ぽっぽグループ』を運営されています。それぞれの場での具体的な取り組みやご様子について、作業療法士の渡邊絵都子先生、言語聴覚士の長田ゆき先生、モンテッソーリ教師の栗原純子先生にお話を伺いました。

 

FOX: 『まんまる』では重症心身障がいを持つお子さんを預かられていますが、どんなお子さんがいらしていますか?

渡邊先生(作業療法士):

まんまるに関しては、本当に重心児といわれるお子さん、歩けないお子さんもいらっしゃいますし、医療的ケア児といわれる運動的には歩行とかはできるけれども気管切開や経管栄養といった医療的なケアがあって、なかなか通常の保育園や幼稚園に行けないという感じの方が通われています。0歳から18歳未満のお子さんが対象ですので、春休みなどの長期休みのときは、高校生などの学生さんも朝から来られたりしますね。お話ができる方もいるので、年上のお子さんが年下のお子さんたちに話しかけて少し面倒を見るようなことも含めて、お子さん同士の交流もある雰囲気です。

 

スタッフとしては、作業療法士である私のほかに理学療法士などのリハビリスタッフと看護師、保育士、生活指導員などがいます。同じ年齢の子が普段当たり前に行ってるようなことを活動として取り入れて、みんなが体験できるようにと考えています。たとえば、本当に近くの公園にお散歩行って、今だったらどんぐりを拾ったりだとか葉っぱを拾ったりだとか、葉っぱを拾ってきて、それに絵の具をつけてちょっと版画のようにして遊んだりとか…季節を感じるということをやってもらいたいなというふうに思います。

 

でも、やはり重症心身障がいのお子さんたちは、ずっと在宅でいらっしゃって、そこから一歩外に出るっていうときに、なかなかハードルが高いなっていう印象はすごくあります。そういう意味では、ここはクリニック併設型なので、何かあればドクターもいますし、搬送する先にも提携しているので、比較的安心できるのではないかと。重心のお子さんたちが、社会に出るためのその一歩目になるような、まんまるであれたらいいのかなっていうふうに思っています。

 

 

FOX: 親御さんの心配は大きいのですか?

 

渡邊先生(作業療法士):

保護者のみなさんも、みんなと一緒に遊ぶとか、集団に子どもを入れたいという気持ちはあると思うんです。でも「本当に大丈夫なのかな」「周りに何か言われないかな」とか、そういう心配も抱えてしまう。そういう心配をさせてしまう社会はやはり変わっていかなければならないし、そういう部分の導入としてまんまるが楽しい場所であったらいいなというふうには思っています。すごく特別なことや何かすごいことをしているというわけではなく、みんながやっている当たり前のことを当たり前にできるような環境をスタッフと共につくっています。

 

この前はまんまるで育てたおいもを焼き芋にしてみんなで食べましたし、お花を植えたりだとか、公園でブランコに乗ったりだとか滑り台をしたりだとか、本当にみんながやっているような活動をしているんです。保育園などですと、年齢は上がったけれども、座っているだけになってしまうので、クラスを少し下げましょう、というようなことは残念ながらあります。なんとなく、「いる」だけではなく、そこに具体的に介入して一緒に参加できるような環境設定が望ましいと思っています。

 

モンテッソーリ教育で改善する親子関係

FOX:モンテッソーリを取り入れた親子向けの『ぽっぽグループ』という活動もされていると伺いました。

 

渡邊先生(作業療法士):

『ぽっぽグループ』では、モンテッソーリの教師の栗原とリハビリ担当として言語聴覚士の長田と作業療法士である私が関わっています。そこの目的としては、どうしても親御さんがお子さんの障がいを受け入れにくく、親子で楽しく遊ぶことができていなかったり、もう少しここはこういうふうに関わったら親子で楽しく遊べるというのになというような部分を、一緒に親子で育っていくお手伝いができたらな、という想いがあります。そういうことで、今、1歳半〜3歳を対象に、年齢により2つのグループに分け、親子参加型の活動を隔週で、外来の一部として実施しています。

 

やはり、そこの親子関係がうまくいくことで、その後の集団生活や日常生活も大きく変わっていく部分があるかと思いますので、低年齢のその時期に介入できたら良いなと思って活動しています。そこでは、一般的なモンテッソーリ教育というよりは、モンテッソーリが大事にしているような感覚の教具や活動の視点を取り入れつつ行っています。

 

栗原先生(アメリカモンテッソーリ教師):

私は、モンテッソーリの勉強をアメリカでいたしまして、コース取得後、お仕事を始めたところに、重症仮死で生まれたお子さんが3歳の頃にそこに入ってこられました。植物状態以外何者にもなり得ないと言われたお子さんだったんですが、お父様が小児科医、お母様が看護師ということもあり、モンテッソーリの感覚教育に大変興味を持たれたんです。そして、お二人で、もちろん機能訓練なども受けながら、ご自宅で感覚教育をされていらっしゃいました。

 

それをきっかけに、障がいのあるお子さんを対象に、教具を使って、そうしたニーズのあるお子さんと関わりたいとずっと思い、国立小児病院の神経科で少し勉強させていただき、結局は30年強、途切れ途切れながらモンテッソーリの教師をしてきました。現在ご縁があって、週に1度ですけれども、『ぽっぽグループ』に参加させていただいてます。

 

FOX: 発語レベルが低い、言葉が全く喋れないお子さんとかもモンテッソーリとの組み合わせというのは行っていらっしゃいますか?

 

長田先生(言語聴覚士):

親御さんたちの関わりも含めて、ノンバーバル(非言語)の部分で全然構わないので、やりとりを作っていけるといいなっていうのが目標です。実際に、言葉が出ないという主訴で来られて、グループ活動を案内することが多いです。

 

FOX: 親御さんへの影響はどのような感じでしょうか?

 

渡邊先生(作業療法士):

もちろん、重症児も含めて預けるということも大切なんですけれども、やはり親子で向き合うという時間も大切かなと思っています。親御さんたちも二極化されていて、「早く預けて療育すれば伸びるのではないか」と思われている方と、ずっとご家庭で、親子だけで過ごされる方に分かれる傾向があるかなとも感じます。

 

栗原先生(アメリカモンテッソーリ教師):

言葉が出ないお子さんの場合、親御さんがどのように声掛けをしたら良いかとか、そういうことが全くわからないという方もいらっしゃるので、親子でご参加されることで、どのように声掛けや介入するかということを、こちらがお見せしたりすることが大切なことなのかなと思っています。

 

長田先生(言語聴覚士):

正解を求める親御さんがとても多いような印象があります。発達障がいのお子さんのケースですが、パズルだったら、パズルがサクサクっとできることを求めてしまいます。でも、その過程で絵を楽しんだり、どんな形かなと試行錯誤したりといったことが子どもの発達にはとても大事なのです。そうした辺りの関わりをより理解していただけると、きっと、その過程を楽しむということに視点が向くので、そうした促しも大事にしています。

 

次回に続く)次回は障がいを持つ子どもたちをとりまく学校教育や社会的な課題について、院長の本田先生にお話を伺います。

インタビュー: 2021.10.20 および 2021.11.04

 

プロフィール:

みくりキッズくりにっく
東京都世田谷にあり、発達障がい専門外来をもつ小児科。
医師・看護師だけではなく、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、心理士、保育士、幼稚園教諭、音楽療法士、管理栄養士、児童支援員等の13種もの専門家たちと職種連携をとりながら、一般小児医療はもちろん、重度の障がいを持った子どもたちのたちのことも考え、医療の枠を越えた様々な取り組みをしている。

 

都内初の医療型特定短期入所(日中ショートステイ)『まんまる』
https://www.micri.jp/manmaru/

 

発達サポート外来(集団療法)『ぽっぽグループ』
https://www.micri.jp/hattatsu-grouptherapy/

 

訪問介護リハビリステーション『七つの海』
https://www.7umicri.jp/