大阪府立西成高等学校校長山田勝治先生「『分けない』を土台にしたうえでのリスペクト(後編)」

(2021年度入学式の看板)

 
前編の続き)
 

 

――西成高校の今後の学校づくりについて教えていただけますか?

 

「生徒」が主語

大事にしていることは、「生徒」が主語になっていくような学校づくりです。例えば、「生徒たちにコミュニケーション能力をつけさせる必要がある」と言うとき、主語は「先生」なんです。「『先生は』生徒たちに、コミュニケーション能力を『つけさせる』」わけです。そうではなく、「『生徒たちが』コミュニケーション能力を『身につける』にはどうしたらいいか」という問いにする必要があります。そうした発想で、主語を全て生徒に置き換えていくことで、学校の建物は変わりませんが、中身は変わると思います。本校では、それを少しずつ実現できているのではないかなと思っています。

この頃は、生徒に「どう思う?」とよく質問しています。先日も、Wi-Fiを飛ばして欲しいという要望が生徒から出たということで、生徒会長が、「僕は、『学校にはお金がないから多分、できないと思いますよ』と答えたんですよ」と話してくれました。私からは、「うん、その通りやけど、それ、君は言わんかった方が良かったんちゃう?手先やと思われるで(笑)」と彼に言ったりしたのですが、そうした話が少しずつできるようになってきていることが、大事なことだと感じています。

 

(部活掲示板)

 

「色んな生徒がいる」ことが強み

そして、「私たちの意見を聞いてください」「私たちはこう思っています」と言うときに、「私たち」の中に色んな生徒たちがいるというのは、強みだと思うんです。さらにいえば、これを強みと思えるような学校づくりは、世界標準ではないかな、と。

ですから、色んな意味で生徒たちがさらに幸せになるような学校をつくっていきたいと思っています。障がいがある生徒だけではなくて、外国ルーツの生徒たちもそうですし、虐待を受けた生徒や不登校の生徒たちも含めて、排除されやすい生徒たちのインクルーシブを、学校の中でどのように実現していくのか。そして、彼らが社会に出ていって、役立つ・役立たないというよりも、社会人としてそこに暮らしていけるように、人としての優しさや幸せを大事にできる人たちを生み出せる学校でありたいです。

 

 

 

――国内にとどまらず、世界レベルの視野で学校づくりをなさっているのですね。

 

海外・生徒たちの反応

私の個人的な夢も含めて、これから5年・10年の間に、世界に発信できる学校になっていきたいと考えています。実は、本校のキャリア教育に関する研究発表を聞いた海外の研究者の方や、NHKの『逆転人生』の放送をパリで観たOECD教育局の方や雑誌編集者の方とのご縁も、既に生まれてきています。

このように、表に出して見える化していくことで、長らく間違った見方をされ続けていた西成高校が、ようやく正しい評価をされるようになってきました。特にNHK番組での紹介は、生徒たちへの影響も大きく、在校生たちだけでなく卒業生たちも、自分たちの学校にプライドを持てるようになってきています。こうしたことは、私自身にとっても大きな喜びです。

 

――公立高校ですと、転勤の可能性は避けられないかと思いますが、だからこそ、山田先生お一人ではなく、みなさんで学校づくりを推進していくという姿勢も生まれてきやすいのでしょうか?

 

学校はオンリーワンなもの

学校というのは、生徒や保護者、教員、地域が集まってポテンシャルを持つと考えています。本校は公立高校ですので、教職人事をコントールできない難しさはありますが、元々のポテンシャルとして持っている強みを潰さないようにしつつ、代々の校長先生からの受け継いだミッションを発展させていくようにしています。

同時に、私たちは、文科省のミッションというよりは、今まさに目の前にいる生徒たちの状況を見て、彼らに合うのは何かということを軸に考えて動いています。
ですから、そういう意味ではもう、本校がやっていることは、オンリーワンといえます。他校は真似できないですし、私たちも他校を参考にはしますが、真似しようとは思いません。

例えば、西成高校は2〜4階に教室があるのですが、この3フロアそれぞれに必ず1か所、合計3か所の介助室があり、車椅子の生徒たちが階層移動せずにオムツ交換などもできるようになっています。これが全ての学校に必要かと聞かれたら、「必要になってから作ればいい」という気がします。というのは、本校もそうしてきましたから。必要が出てきたときにフレキシブルにつくっていける力があれば問題はなく、必ずしも病院のように備えていなければならないわけではないと考えています。それは、「勿体無い」ということや「想定している・いない」ということとは別の話です。

 

「合理的配慮」とは?

――「合理的配慮」の考えが取り入れられた『障害者差別解消法』が2013年に制定されました。
「合理的配慮」は、簡単に言えば、過度な負担にならない範囲で、障がい者を取り巻く社会的・物理的障壁を取り除くことだと理解していますが、西成高校では、どのように捉えて対応していらっしゃるのでしょうか?

 

以前にも、「『合理的配慮』とは、何でもしなければならないのですか?」と質問されたことがありました。そうではなく、合理的配慮は、どうしたいのかをお互いに話し合って、現実の中でできることを考えて調整することだと考えています。

具体的には、昔、「エレベーターがない」という理由で、別の高校で入学を断られた車椅子の生徒が本校に来たことがありました。設備がなくても、作るか、何か工夫するという選択肢もあるはずです。例えば、「今すぐにはエレベーターはつかないですが、来年はつきます。今年は辛抱してもらえませんか?」という話し合いの中では「いや、今すぐつけてください」ということにはならないでしょう。

他方で、「エレベーターがないので、入学できません」というのは、調整ではありません。「エレベーターがない」ということと、「入学できない」ということは、別の話なのです。
もっと言えば、こうした話し合いと調整において問われるのは、「元々の姿勢として一緒にいようと思っているかどうか」ではないかと感じています。

 

 

 

生徒が学校を選ぶ

高等学校は特に、学校が生徒を選ぶと思われがちですが、本校は、生徒に学んでもらえるように状況を整えて、「こんな学校ですが、どうぞ来てください」というスタンスをとります。つまり、生徒が学校を選ぶんです。ただ、そうは言っても、志望者が定員を超えた場合は、受け入れられない生徒が出てしまいますので、それは本当に不本意です。

本校では、自立支援コースの生徒に関しても、障がいの軽重で選抜をすることはありません。ご本人や保護者の方に、中学校での様子など含めて色んなことを聞いて、「ともに学ぶ」ことに合っているかどうかを総合的に判断しています。人とつながろうという意欲や、好きなこと・笑いのツボなどのフックがあると、周りの生徒たちともよりつながっていきやすく、豊かな高校生活が送れますし、それがまた次へつながっていきます。

 

 

 

――西成高校で大切にされていることとして、「仲間を見下さない」と「自分をあきらめない」という2つのことがあるかと思うのですが、「仲間」と言葉に込められている感覚や想いはどのようなものなのでしょうか。

 

リスペクト

「とき」と「時間」と「空気」をともにしている者が、「仲間」です。例えば、本校では、集会の度に校長が、「仲間を見下さない」ということと「自分を絶対にあきらめない」ということを呪文のように言い続けています。これが、学校の文化です。こうした文化を共有している者は、たとえ直接話したことがなくとも、ともに学んだ「仲間」です。

そして、本校で大切にしている2つのことを、一言で言うと、「リスペクト」なんです。周りの仲間をリスペクトすると同時に、自分自身をリスペクトする。このリスペクトが、「自分を諦めず、人を見下さない」、ということにつながっています。

さらに、自分と仲間だけでなく、「学ぶ」ということもリスペクトして欲しいとも思っています。「学ぶということは大切なことなんだ」、と。本当は、学校そのものをもっと好きになって欲しいですし、大切して欲しいのですが、最初はやはり、西成高校のことを、そんなに好きにはなってもらえません。ですが、学ぶことや学校の大切さがだんだんわかっていくと、最後には好きになって卒業してくれて、アンケートでも「西成高校に来て良かった」という回答が9割を超えるのです。そして、そのための仕掛けを上手に作るのが校長の仕事なのだと感じています。

生徒たちが、今以上に、自分自身や仲間そして学校のことを好きになって大切にしていくこと、胸をはれるように一生懸命努力していくこと、それがリスペクトしていくということであり、西成高校における文化だと思っています。

 


 

インタビュー:福田 2021.10.25

 

プロフィール:

山田 勝治(やまだ かつじ)

大阪府立西成高等学校 校長

1957年、大阪市西成区生まれ。
1990年から2004年までの15年間、「成人識字」教室の運営に関わる。05年、西成高校に教頭として赴任、09年から13年3月まで同校校長を務めた後、異動。17年、同校校長として再赴任。「基礎教育保障学会」所属。
著作に『格差をこえる学校づくり 関西の挑戦 阪大リーブル』(志水宏吉編、大阪大学出版会)内の第2部『「先端でもあり、途上でもある」—高校版「UD化」計画—』、『わたしたち(西成)は二度「消費」された』(ヒューマンライツ2019年9月号)。また同校で全国初めて開始された「校内居場所カフェ」について、に「となり」カフェという企(たくら)みーハイブリッド型チーム学校論(『学校に居場所カフェをつくろう!-生きづらさを抱える高校生への寄り添い型支援』(居場所カフェ立ち上げプロジェクト編著,2019))を執筆。
2021年1月NHK総合「逆転人生」にて取り上げられる。