医療の枠を超えてこどもの生活を支える(前編)生活ありきの医療を〜世田谷みくりキッズくりにっく本田真美先生インタビュー

本田真美先生 東京慈恵会医科大学卒業後、国立成育医療研究センター、都立多摩療育園、都立東部療育センターにて経験を重ねた後、世田谷区内の小児クリニックで院長を経て『みくりキッズくりにっく』を開設。

 

障がいがある子どもたちは、さまざまな職種の専門家にお世話になります。医師・看護師だけではなく、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、心理士、保育士、幼稚園教諭、音楽療法士、管理栄養士、児童支援員などなど。東京都世田谷区で、こうした13種の専門家たちと職種連携をとりながら、一般小児医療はもちろん、重度の障がいを持った子どもたちのたちのことも考え、医療の枠を越えた様々な取り組みをされている『みくりキッズくりにっく』さん。障がいがある子どもたちに関わるにあたって、なにを大事に考えられているでしょうか? 前編は院長である本田真美先生にお話を伺いました。

 

FOX(門川): 私の息子も重症心身障がい児(重心:重度の肢体不自由と重度の知的障がいが重複)ですが、みくりキッズくりにっくさんの「過保護でおせっかいな診療を」というモットーに感銘を受けました。みくりキッズくりにっくさんは、一般小児医療で土日を含めた週7日診療、そして急な病気や症状に対応されているだけでなく、重症心身障がい児(重心)の子どもたちに対して医療の枠を超えた、アウトリーチな(積極的に手を伸ばす)取り組みをされています。これははじめからそうだったのですか?

 

大病院ではできないことがある

私は小児神経が専門だったので、神経や筋肉のことが元々のベースにあって、成育医療センターの神経科で病気の診断をつけたり薬を処方したりしていました。そのときは、まだ若かったこともありますが、診察室の中だけの付き合いで、この子たちに生活があると思っていませんでした。過去の私がそうであったように、そうした生活ありきじゃない医療の感覚の中にいる医者というのは、少なくないんです。でも、この子たちにも生活があって、学校や保育園にも行っていることに気づいたときに、ハッとして。そうした頃に、療育センターに移ることになりました。

 

療育センターは生活介護やリハビリが中心なので、医者のヒエラルキーが結構下がるんです。そこから学ぶことが、すごく多かったんです。医者は、診断するし薬を出すし点滴もするし手術もするし…病院の中で一番手を施しているように思っていた時期から一変して、療育センターで、「いや先生、そうじゃないでしょ」とか「食べ方はこうです」と言われて。自分は子どものことが全然見えていなかったんだな、ということが、とても衝撃的でした。抱っこ一つとってもセラピストたちの方が上手ですし、支援員やリハビリのスタッフが医者の上にいて、セラピストたちに色々教えてもらうという感覚を、5年間築きました。

 

また、今は小児神経でも治る病気が少し増えてきましたが、その頃は何人も看取ることがあったので、彼らに与えられた生命というものをどれだけ充実させられるのかな、ということを考えさせられました。それは、学校に行くことかもしれないし、色んな経験をすることかもしれないし…そうした生活や地域とのつながりに、私はとても興味を抱くようになりました。

 

ただ、療育センターも組織なので、何かをしたいときには、色々な委員会等を通して進める必要があります。例えば、子どもたちの家を訪問するようなことまではなかなか叶わないというような状況に、不自由さは感じました。

 

クリニックならではの取り組みをスタート

それならば、クリニックでやってみようということで、院長としてあるクリニックに入りました。その地域で暮らしている障がいのある子たちを診たいという気持ちがベースがありました。でも、地域には、それまで診てきたような医療的ケア児や重症心身障がい児だけではなくて、発達障がい児や学校に居場所がないといったようなお子さんたちも含めて、地域で困っている子どもたちが思っていたよりも多いことに気がつきました。

 

予防接種も、何時間も待つことなく、もう少し気軽に打てるといいよねとか、救急で1〜2時間待って、解熱剤しかもらえなかったりするのであれば、クリニックで採血して、その判断もできるといいよね、とか…そうした、クリニックレベルでの診療が大分見えてきたのが、ちょうど5年経った頃だったんです。それで、6年前に、『みくりキッズくりにっく』を今のスタッフたちと一緒に立ち上げました。

 

地域に開かれた場をつくっていく

当院は一般小児科もやっているので、地域の子どもたちと、発達障がいのお子さんや医療的ケアが必要なお子さんたちが一緒に参加できるワークショップを、コロナ前には何回か実施していました。他にも、クリスマスイベントを企画して、障がいや病気に関係なく、参加したい人を募集するというようなことも。

 

 

こうした企画をしたきっかけは、私の娘が小学校2年生ぐらいのときに、筋ジストロフィーの子を見てすごく怖がったことでした。呼吸器や管がついているとか、筋肉がなくて寝たきりの状態という子を初めて見たときの彼女のそうした反応には私は少しがっかりしましたけど、そういう子どもたちと接する機会がないためではないかなと感じるところもありました。なので、できるだけ地域に開かれた形で、隠すのではなくて一緒に活動する、ということを今後も大事にしていきたいと思っています。

 

きょうだい・家族の選択肢も広げていきたい

実は、わたしは小学校5年のときに、NHKで初めて見た自閉症の子のイルカセラピーの衝撃が忘れられずに小児科医を目指したという経緯があります。なので、研修医時代に、フロリダのDolphin Research Center でその真髄を学びました。1995年から沖縄で、DAT(イルカ介在療養)に携わってきましたが、2018年には、日本財団の支援も受け、沖縄でキャンプが実現しました。

 

参加者のひとり、2歳の頃から診ていて、8歳(当時)のケンちゃんは24時間酸素、夜間呼吸器のため、生まれて初めての飛行機、生まれて初めての家族旅行でした。お姉ちゃんも弟が生まれてからは飛行機に乗ったことがなく家族旅行もしていなかった中で、そうした経験を共にできることは、私たちにとっても楽しいですし嬉しいですね。

 

 

昨日はお芋掘りをしましたし、今日はシクラメンの花を植えました。私が元々イルカセラピーをやりたかったように、そういったことが実現できるということが、今一番面白いかな、と思っています。シクラメンを植えたいねって言ったのは、『まんまる』の送迎をしている運転手さんです。お花が大好きなので、何か植えたいと言ってくれたそうです。

 


(『まんまる』Instagramより)

 

親同士の交流

親同士の交流は、まだないのですが、やっていきたいという声はスタッフからすごく挙がっています。発達障がいのお子さんの親御さんたちに対しては、ご自身のリフレッシュを目的としたヨガやマインドフルネスのセッションを心理士がメインとなって実施したりはしています。重症心身障がいのお子さんに関しては、就学後に学校つながりのコミュニティができていきやすいようですが、就学前のお子さんの親御さんは、こうした交流を希望される方ばかりではありません。

 

わたしたちは、重症心身障がい児を対象とし、日中の預かりを行う『まんまる(日中ショートステイ)』を運営していますが、入院生活が長かったお子さんが『まんまる』に通いだして、「こんなにいい表情をするようになった」、というようなことはあります。重症心身障がいのお子さん同士で触れ合ったり、親御さん以外の大人のスタッフと触れ合ったりする機会が増えるので、その中での表情やできることの変化だとか気づきなどを親御さんにお伝えすると、「これでよかった」というようなお声をいただいたりもします

 

お子さんが大きくなった親御さんたちから、「自分たちも、子どもがちっちゃいときにこういうところがあったらよかったな」とおっしゃっていただいたり、遠くから来られている方から、「近所にこういうクリニックがあったらよかったな」という言葉をいただいたりすることはあります。これからも頑張っていきたいと思います。

 

次回に続く)次回は、18歳以下の重症心身障がい児を対象とし日中の預かりを行う『まんまる(日中ショートステイ)』や、1歳半〜3歳児を対象としモンテッソーリ教育を取り入れた親子参加型の『ぽっぽグループ』で具体的にどのようなことをされているのか、お話をお伺いします。

インタビュー: 2021.10.20 および 2021.11.04

 

プロフィール:

みくりキッズくりにっく
東京都世田谷にあり、発達障がい専門外来をもつ小児科。
医師・看護師だけではなく、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、心理士、保育士、幼稚園教諭、音楽療法士、管理栄養士、児童支援員等の13種もの専門家たちと職種連携をとりながら、一般小児医療はもちろん、重度の障がいを持った子どもたちのたちのことも考え、医療の枠を越えた様々な取り組みをしている。

 

都内初の医療型特定短期入所(日中ショートステイ)『まんまる』
https://www.micri.jp/manmaru/

 

発達サポート外来(集団療法)『ぽっぽグループ』
https://www.micri.jp/hattatsu-grouptherapy/

 

訪問介護リハビリステーション『七つの海』
https://www.7umicri.jp/