医療の枠を超えてこどもの生活を支える(後編)学校は医療に遠慮しなくていい〜世田谷みくりキッズくりにっく本田真美先生インタビュー

本田真美先生 東京慈恵会医科大学卒業後、国立成育医療研究センター、都立多摩療育園、都立東部療育センターにて経験を重ねた後、世田谷区内の小児クリニックで院長を経て『みくりキッズくりにっく』を開設。

 

医師・看護師だけではなく、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、心理士、保育士、幼稚園教諭、音楽療法士、管理栄養士、児童支援員などなど。東京都世田谷区で、こうした13種の専門家たちと職種連携をとりながら、一般小児医療はもちろん、重度の障がいを持った子どもたちのたちのことも考え、医療の枠を越えた様々な取り組みをされている『みくりキッズくりにっく』さん。前編では、重度の障がいがある子どもたちに関わるにあたって、生活を重視し、医療の枠を超えた取り組みをされていること、中編では、クリニックの言語聴覚士、作業療法士、モンテッソーリ教師のみなさんに「障がいをかかえた子どもたちの学び」について伺いました。今回は院長である本田真美先生に学校との連携や医療・福祉をとりまく制度的な課題についてお伺いしました。

 

遠慮が生む壁

FOX: 医療の立場から教育を見たときに感じられることや、医療ならではの子どもたちへの手の差し伸べ方といったようなことは、何かありますでしょうか。

教育や学校については見えていないこともあると思いますし、答えになっているかわからないですけれども、本当は、教育・医療・福祉が三本柱だと思うんです。教育の先生方は、なんというか、医療に遠慮があるようにも感じていて。先生方もご自身のやられていることに誇りは持っていらっしゃると思うので、「それは医療ですよね、ここからは教育になるので…」というような線が引かれてしまいやすい状況があるのかもしれません。

 

ケアや発作、行動面等で問題があるとき、「お薬を…」とか「1回診てもらった方がいいんじゃないか」とか、症状だけに焦点を当ててしまうと、環境や関わりから一緒にやりとりしていくという状況がなかなか作りにくいのかもしれません。私たちも子どもたちと関わっていて、「こうやったらこうできた」というようなことを、子どもたちの日常生活である学校にも汎化させていけたらいいなと思うことは常々あって。何かそういうことが、もう少しできていけるといいなと思います。

 

保育所等訪問事業サービスのように、医療者や専門家が学校や保育園に行って情報を伝えるといったこともありますが、まだまだ十分にはできていないように感じています。もう少し対等な関係で、気軽にやりとりできるような状況が作れるといいですね。クリニックとしては、地域の保育園や学校の他にも、障がい児保育の講演会を当院が担ったり、世田谷区からの依頼を受けたりすることもあります。保育士さんに講義するというようなことも、だんだんに形にはなってきているかもしれないですね。



 

医療・療育における課題

FOX: そのほか、重心の子どもたちをとりまく医療・福祉領域での課題で気になるものはありますか?

 

みくりキッズクリニックは医療型特定短期入所『まんまる』をやっていますが、世田谷区には重症心身障がい児の放課後等デイサービスがあったり、世田谷区が障がい児保育を始めていたりします。そうした様々なサービスがある中で、一番感じている問題点は、それぞれをしばる法律が違う、ということです。

 

例えば、医療型特定短期入所というのは「レスパイト(緊急時の預かり場所)」なので、法的には子どもの発達支援や親御さんの就労支援をする必要がありません。言い換えると、放課後等デイサービスは発達支援、障がい児保育は就労支援がメイン…というように、それぞれの目的が分かれていて、目的外のことに対する法的な根拠がない状況になっています。私たちは、子どもには基本的に全ての要素が必要だと考えているので、医療型特定短期入所でも、支援員やリハビリのスタッフを入れて活動しています。

 

そのほか、小児にはケアマネージャーがいないので、福祉サービスを受けられている人と受けられていない人の差が大きいと思います。医者顔負けの情報を知っている親御さんもいらっしゃる一方で、障がい者手帳も知らなかったり持っていなかったりする親御さんもいらっしゃいます。情報を取りに行かないと、サービス自体を教えてくれる場所がないんです。私たちは、選択肢を増やしたいという気持ちが強いので、『七つの海』で訪問看護ステーションもやっていますし、訪問看護ステーションと重症心身障がい児の施設と一般小児とが連携を取りながら、家庭でも…というところを目指していきたいスタッフたちが集まってくれています。


FOX: 本当にさまざまな側面からアプローチから子どもたちをみていきたいというスタンスを感じますが、苦労も多いのではないでしょうか。

 

『まんまる』を立ち上げたときは、都内初の医療型特定短期入所ということで、都庁に何度足を運んで、何度怒ったか…という感じでした。前例がない場合は特に、法的・役所的なハードルが非常に高いので、その話だけで一晩飲み明かせるぐらい大変な思いはしましたね(笑)。

 

当院の理学療法士が福祉機器展というものを企画してくれていて、今年の7月にも開催しました。こうした展示をクリニックでやるのは、日本全国で他にないと思いますし、そういったようなことが、より身近になっていくといいなと感じています。装具も当院で作れるようになってきて…装具や車椅子なども、クリニックで作れるレベルの技術とスキルができていけば、親御さんたちは、大きな病院にいく必要もなくなって、より楽になるのではないかな、と。当院ではMRI等はできないのですが、他で提供されていないサービスを、小回り利かせてやっていくというのが、当院ならではのできることなのかなと思っています。

 

インタビュー: 2021.10.20 および 2021.11.04

 

プロフィール:

みくりキッズくりにっく
東京都世田谷にあり、発達障がい専門外来をもつ小児科。
医師・看護師だけではなく、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、心理士、保育士、幼稚園教諭、音楽療法士、管理栄養士、児童支援員等の13種もの専門家たちと職種連携をとりながら、一般小児医療はもちろん、重度の障がいを持った子どもたちのたちのことも考え、医療の枠を越えた様々な取り組みをしている。

 

都内初の医療型特定短期入所(日中ショートステイ)『まんまる』
https://www.micri.jp/manmaru/

 

発達サポート外来(集団療法)『ぽっぽグループ』
https://www.micri.jp/hattatsu-grouptherapy/

 

訪問介護リハビリステーション『七つの海』
https://www.7umicri.jp/