「なじみになる、っていったいどういうことなの?」

「君はまだぼくには、ほかの十万人の子どもとまるで違いのない子どもさ。だから、ぼくは君がいなくても気にしない。君のほうでも、君はぼくがいてもいなくても気にしないだろ?」

「だけど、君がぼくのなじみになってくれたら、君とぼくとは、お互いになくてはならない者同士になる。君はぼくにとって、この世でたった一匹のキツネになるのさ・・・・」

出典:『星の王子さま』稲垣直樹[訳]平凡社(2006)

Mission

すべての子どもが 子どもたちの中で育つ世界を

story

このプロジェクトは、​ボーリング・オピッツ症候群という日本でも数例しかない遺伝性疾患を持つ門川未來(みく)君と、お父さんとの出会いからはじまりました。

未來君の障がいの程度は、重度重複というもので、喋れません。言葉を理解することもできていないようにみえます。でも、どこかに行きたい時にはそちらの方向をみます。美味しいものや好きなおもちゃを見ると顔がほころびます。嫌なことがあると、しかめ面になります。実は、とてもコミュニケーションが上手です。楽しい話をしている時には、とても穏やかな表情をします。優しい目や口元を見るだけで、こちらまで幸せになってしまいます。

未來君は、1年保育所生活を経て、地域の公立小中校に進学しました。8歳くらいの身長もあって、クラスのともだちとも活発に交流しました。中学生の時には吹奏楽部に所属し、部のみんなは未來君の笑顔を目指して練習しました。普通高校にも進学しました。未來君は、かけがえのない「ともだち」をたくさんつくりました。

「障がい」というと、なにかが欠けていると考えてしまいます。でも、それは本当でしょうか?もし、わたしにだって欠けているところがあるのであれば、なんの違いがあるのでしょう? わたしたちはみな不完全である一方、「いのち」としては欠けるところがないという意味で一緒、なのかもしれません。だったら、「なにかしてもらう」「なにかしてあげる」という関係ではなく、星の王子さまとキツネのように、「せかいでたったひとり」のともだちにはなれないでしょうか?

キツネはいいます。「人間たちには、なにかを知る時間なんかは、もうなくなっているんだ。人間たちはお店屋さんで出来合いのものを買う。だけどねえ、友だちを売っているお店なんて、ありっこないだろ。だから、人間たちは、もう友だちができないのさ」

私たちはお互いに十万人のなかのたったひとりの「ともだち」になれるでしょうか?それには「時間」が必要です。そして、キツネが言う通り、大切なものは目には見えません。星の王子さまがバラをたいせつに思っているのは、そのバラの花のためにひまつぶししたから。そんな時を一緒にすごしてみませんか?  

 藤原さと